希ガスのHeはvan der Waals力で多くの表面に吸着するが, 化学吸着ではないので単純に二次元的なHe原子配列ができると考えて基本的には正しいと思われている。この事は表面の研究を行っている多くの人には変化に乏しいシステムと思われるかも知れない。しかし逆に二次元配列状態と通常の三次元配列状態との違いを, 出来るだけ他の複雑な要素が入らない条件下で調べたいと思う場合には, 理想に近いシステムになると思われる。このような観点から表面に吸着したHeの研究が物性物理の研究者によって行われてきた。なかでも3Heは核スピン1/2のフェルミ粒子で磁気モーメントを持っているので, 磁気的性質に関心を持った研究が最近多くなされ, 予想外に多様な磁性を示すことがわかってきた。この稿では吸着3Heの磁性に焦点を絞って最近の研究結果を紹介することにする。
ただその前に, 吸着3Heの磁性との比較のために, バルクのHeに関する実験結果, スピン1/2の三角格子の磁性の問題点, およびこの様な研究を可能にした最近の超低温実験技術の進歩について, ごく簡単な紹介をはじめに述べておく。