かつて, FEMで観察された銅フタロシアニンの四つ葉状の明るいスポットが分子の形を映すものとして注目され, BaやCsの吸着のさいに見える円形のスポットが原子像であると考えられたが, 決定的な証拠がなく論争の的となっていた。しかし, 間もなくイオン顕微鏡が華々しく登場してこの論争が立ち消えになっていた。
最近, われわれは, Tiの吸着で生じたRe (1010) 面やW (112) 面上の明るいスポットを観察し, 個々のスポットがこの結晶面の構造 (一つ置きに原子列の畝と溝が並んでいる) を反映して, 溝に沿う方向に運動しながらこれを横切って直線状のクラスターになることを見いだした。特に, Re (1010) 面では1個のスポットの移動が観察され, 典型的な一次元の酔歩運動であることが分かった。このようなスポットの動的な挙動はFEMで初めて観察されたもので, FIMの観測結果と驚くほど類似し, スポットの実体が原子であることを端的に示している。