薄膜形成中あるいは薄膜を通してイオン注入を行ういわゆるイオンビームミキシングは,これまでのところ熱的に添加できない原子の混合や,薄膜と基板との界面混合による密着性の改善に主たる目的が置かれていた。近年,このイオンビームミキシング技術は新機能,多機能表層の創成法として期待され,密着性の向上のみならず膜の結晶構造や配向性を制御する研究が盛んに行われている。ここでは,AINx薄膜へのイオン注入すなわちイオンビームミキシング中の結晶成長について解説する。まず,AlNx(0.2≦x≦1.4)薄膜の組成および構造変化に及ぼす窒素イオン注入効果について述べ,つぎに注入イオン種の違いによるAlNx(x=0.8)薄膜中のAlNの結晶成長の違いについて述べる。これにより,薄膜の結晶化と注入粒子のエネルギー損失過程との関係に言及する。