表面科学
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エナメル質の表面構造:虫歯は歯の表面から
脇田 稔
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1991 年 12 巻 6 号 p. 399-404

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抄録

歯の痛みとくにウ蝕(虫歯)の痛みは,ほとんどの人が体験する不快きわまりないものとして知られている。しかし,ウ蝕の原因については,不明な点も多いが,必ず歯の表面から最初に始まる。歯は,咀嚼器官としてのほかに,比較解剖学,人類学,法医学の分野で,重要な研究対象である。歯の最外層を被うエナメル質の表面にある複雑な皺(裂溝)が,それぞれの歯に特有の外形を与えている。裂溝はウ蝕好発部位の一つである。エナメル質は95%以上がハイドロキシアパタイトの結晶であり,知覚や自己修復能がないことも特徴である。エナメル質は容易に酸に溶解する。ウ蝕発生の最初の変化は,歯垢の細菌が産製する酸によるエナメル質の脱灰である。エナメル質表面のハイドロキシアパタイトを構成するCa2+やOH-は,口腔内の種々のイオンと容易に置換する。とくに,OHをFに置換すると,ウ蝕に対する抵抗性が増すので,ウ蝕予防の重要な手段となっている。

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© 社団法人 日本表面科学会
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