以前より,いろいろな固体表面上にある条件でグラファイトの薄膜が成長することはよく知られていた。だが,結合の手がすべて面内で閉じているグラファイトは元来C面がきわめて不活性であることから,このグラファイト膜の物性がグラファイト結晶から大きく変化するとは考えられていなかった。ところが近年になって,高温に加熱した基板表面上での炭化水素ガスの分解によって形成した単原子層のグラファイト膜の物性は,基板の種類によっては,グラファイト層間化合物以上にグラファイト結晶から変化していることが明らかになってきた。しかも,アルカリ金属原子をドープしたC60結晶やグラファイト層間化合物の場合のような炭素系への電荷の移動が変調の主な原因ではないこともわかってきた。 ごく最近になって作製できるようになった膜厚が2原子層のグラファイトはよりグラファイト結晶に近い電子状態になっており,これと単原子層グラファイトとを比較することで,これまで以上に詳細な議論が可能になった。本稿では,光電子分光法を用いた単原子層,および2原子層グラファイトの電子状態の観察結果を中心に,この新しい物質群について今までにわかってきたことを紹介する。