水素は表面界面で種々の興味深い現象を引き起こすことが,最近,いくつか報告されている。その一つに,通常は非常に安定な,Si(111)表面上金属単原子層の2次元規則吸着構造が,原子状水素にさらされると室温においても簡単に構造変化を起こし,ナノメートル程度の3次元クラスターが形成される現象がある。この現象は,原子状水素を表面に付与することで3次元クラスターが自己組織化されたものとみなすこともできる。いわば外部からの刺激がトリガーとなり,より安定な別の状態に転移したものといえよう。本稿では,Ag/Si(111)系におけるこのような自己組織化過程を,走査トンネル顕微鏡(STM)により,原子レベルでその場観察した結果を中心に,われわれの最近の成果について述べる。