表面科学
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歯のエナメル質形成過程で発現するリズムと空間パターン
高野 吉郎
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1996 年 17 巻 6 号 p. 321-327

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抄録

歯の表面を被うエナメル質は,水晶に匹敵する硬さを持つ,生体で最も高度な石灰化組織である。エナメル質は顎骨の中で歯がつくられる過程で,成熟期と呼ばれる長い期間を経て,ゼリー状の組織からリン酸カルシウム結晶の固まりのような鉱物的組織へと変貌する。エナメル質の高度な石灰化は,成熟期エナメル芽細胞によって制御されるが,エナメル芽細胞はエナメル質の成熟過程を通じて幾度となく形態変化を繰り返す。この時,エナメル芽細胞層には形態の異なる2型のエナメル芽細胞群が交互に配列して,縞状の見事なパターンを形づくる。このエナメル芽細胞の形態変化のリズムとそこに発現するパターンは,特殊なカルシウム染色により成熟期のエナメル質上に鮮明な赤い縞模様として染め出される。カルシウム染色で染め出される縞模様は,動物種,歯種に固有で,並行な縞模様から同心円,ラセン模様と多彩な形態を示し,非平衡化学反応系の非線形現象の代表例であるBZ反応にみられる動的なパターンと酷似している。本稿では成熟期エナメル芽細胞層および成熟期のエナメル質表面に発現するリズムとパターンを紹介し,その制御機構を推察する。

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