日本化学会誌(化学と工業化学)
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N-フェニルマレイミド合成の反応機構と選択率の向上
喜多 裕一岸野 和夫中川 浩一
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1996 年 1996 巻 4 号 p. 375-384

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抄録

水と混ざり合わない不活性有機溶媒中での N-フェニルマレアミド酸(PMA)の脱水閉環反応によるフェニルマレイミド(PMI)の生成反応は, PMA の転化率がほぼ 100% となる点を境として大きく二つの部分に分けられ,反応温度-時間曲線もこの点で変曲点(B)を示す。前段部分は PMA が溶媒に分散したスラリー状態であり,後段部分は反応生成物が溶媒へ溶解して均一相を形成している。この反応の前段と後段それぞれの生成物を分離同定し,合計 10 種類の化合物が確認され, PMI の合成反応中に次のような反応が起こっていると考えられた。すなわち,反応前段において, PMA の脱水閉環による PMI の生成のほか, PMA の異性化による N-フェニルフマルアミド酸(PFA)の生成や PMA の加水分解によつてアニリンとマレイン酸が生成する.マレイン酸はさらに脱水されて無水マレイン酸となるか異性化によりフマル酸となる。他方,アニリンは PMI と反応して 2-アニリノ-N-フェニルスクシンィミド(APSI)を生成し,この APSI はさらに無水マレイン酸と反応して N-(2,5-ジオキソ-1-フェニル-3-ピロリジニル)-N-フェニルマレアミド酸(PPMA)を生成する。反応後段では, PPMA は分解して PMI を与える。反応前段部分の PMA の反応速度は触媒量の影響を受け,変曲点までの時間は触媒量によって変化するが,変曲点(B)における反応液組成は触媒量によらずほとんど一定であった。なお,反応に使用された無水マレイン酸とアニリンのモル比によって組成は大きく変化する。反応後段部分においては前段部分で生成した PPMA の PMI への分解速度も触媒量の影響を受ける。前段で生成した APSI は後段部分においても分解しにくいため,反応のモル比が PMI の収率にあたえる影響が大きくなる。しかしながら,変曲点(B)で反応系にさらに無水マレイン酸を加え, APSI を PPMA へと変化することにより後段部分において効率良く PMI に分解し, PMI への選択率を改善でき PMI の収率を向上させることができた。

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