日本農芸化学会誌
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イオン交換膜電気透析法による脱脂乳脱塩過程のカゼインミセルの形態変化
本村 利昭内田 幸生富沢 章平岡 康伸福島 正義種谷 真一
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1991 年 65 巻 8 号 p. 1213-1222

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抄録

イオン交換膜電気透析法を用いて脱脂乳の無機成分を脱塩した.カゼインミセルは脱塩の過程でサブミセルに解離した.その解離過程を無機成分量とカゼインミセルの大きさの変化について考察した.脱塩中の無機成分のうちとくにカルシウムとリンは,イオン状,コロイド状およびカゼイン結合型に分けて測定した.カゼインミセルの形態変化は遠心分離,濁度および電子顕微鏡で測定した.
脱脂乳の脱塩過程は,次の三段階に分けて考えることができた.脱塩の各段階を,カルシウム脱塩率で表わすと,0~50%, 50~80%および80%以上で,カゼイン結合型Ca/Pのmol比で表わすと,おのおの1.38~1.0, 1.0および1.0未満である.脱塩の第一段階は乳中にイオン状で存在していた無機成分が脱塩される.第二段階は,カゼインに結合していた無機成分が解離し,それに伴いミセルからサブミセルが解離する.この段階はミセルの大きさが減少し,コロイド相のカルシウム,リンが増加する.第三段階は,わずかに残ったカゼインに結合するカルシウムは脱塩されるが,有機リンは脱塩されずに残り,Ca/P比は1.0未満になる.
カゼインミセルの大きさは,脱塩に伴って徐々に減少し濁度測定の結果,カルシウム脱塩率80%で最小値になった.遠心分離で沈降するカゼインに結合するカルシウム量は,脱塩初期からほぼ直線的に減少しカルシウム脱塩率80%で最小となり, 90%でふたたび増加した.また,表面疎水性はカルシウム脱塩率80%で最大値になった.このことはカゼインミセルがサブミセルに解離し,ミセル内部に存在する表面が疎水性のサブミセルが,多数解離していることが示唆された.疎水性のサブミセルどうしが凝集するために,カルシウム脱塩率90%でふたたび大きな粒子が増加すると考えた.

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