日本顎口腔機能学会雑誌
Online ISSN : 1883-986X
Print ISSN : 1340-9085
ISSN-L : 1340-9085
摂食嚥下障害者の舌運動評価を目的としたパラトグラム法の導入
木内 延年河野 正司池田 圭介道見 登植田 耕一郎
著者情報
ジャーナル フリー

2001 年 8 巻 1 号 p. 7-15

詳細
抄録

本研究の目的は, 摂食嚥下障害者に対してパラトグラム法が食塊形成障害や食塊の咽頭への送り込み障害の診断に利用できるか否かを検討することである.被験者は, 摂食嚥下の準備期および口腔期における摂食嚥下障害者4名と摂食嚥下機能および顎口腔系機能にも異常を認めない本学学生5名の正常者とした.パラトグラムは口蓋床 (黒色塩化ビニールシート) を用いた粉末法により, 以下に記した被験語と唾液嚥下のパラトグラムを記録した.被験語は, 摂食嚥下障害者の構音訓練に用いられる「タ」, 「ナ」, 「ラ」, 「キ」を選択した.被験語「タ」, 「ナ」のパラトグラムは舌前方および舌側縁による食塊形成能力, 被験語「ラ」のパラトグラムは舌尖部による食塊形成能力, 被験語「キ」のパラトグラムは舌後方部の挙上による食塊の咽頭への送り込み能力, 嚥下のパラトグラムは舌背部の挙上による食塊の咽頭への送り込み能力を調べるために用いた.
その結果, 以下の結論を得た.
1.食塊形成障害がみられた症例に, 被験語「タ」, 「ナ」のパラトグラムにおいて舌前方および舌側縁に異常が認められなかった.本研究において, 被験語「タ」, 「ナ」のパラトグラムから、食塊形成障害は舌前方および舌側縁と口蓋との接触異常が原因でないことが示唆された.
2.食塊形成障害がみられた症例に, 被験語「ラ」のパラトグラムにおいて舌尖部と口蓋との接触に異常が認められた.被験語「ラ」のパラトグラムは, 舌尖と口蓋における食塊形成能力の診断に有効であることが示された.
3.ムセ症状がみられた症例に, 被験語「キ」のパラトグラムにおいて舌後方部と口蓋との接触異常, もしくは嚥下のパラトグラムにおいて舌背部で口蓋との接触異常が認められた.被験語「キ」と嚥下のパラトグラムは, 舌の挙上能力の低下によるムセの診断に有効であることが示された.
これらの症例を通して, パラトグラム法が摂食嚥下障害者の食塊形成障害や食塊の咽頭への送り込み障害の診断に利用できる可能性が示された.

著者関連情報
© 日本顎口腔機能学会
前の記事 次の記事
feedback
Top