日本薬理学雑誌
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特集 精神疾患治療薬の研究戦略
統合失調症の認知機能障害に注目した非臨床からのアプローチ
渡邉 裕美
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2010 年 136 巻 3 号 p. 133-136

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抄録

統合失調症の治療のゴールは,患者を社会復帰させることである.しかしながら,既存の抗精神病薬は陽性症状をよく改善するが,陰性症状や認知機能障害に対する作用は十分ではない.また,認知機能障害と患者の機能的転帰が高い相関を示すことから,統合失調症の治療薬研究において,認知機能障害を改善する薬物の開発が注目されている.米国では「統合失調症における認知機能改善のための測定と治療研究」と呼ばれるプロジェクト(Measurement and Treatment Research to Improve Cognition in Schizophrenia: MATRICS)において,統合失調症で障害されている認知機能領域が同定され,それらを包括的に評価できるテストバッテリーが開発された.このテストバッテリーを構成する臨床検査に対応する動物試験を,前臨床における薬効評価に用いれば,その試験成績をヒトに外挿しやすく,予測妥当性を高められるのではないかと考えられる.そこで我々は,Glasgow大学およびStrathclyde大学と共同で行ったYoshitomi Research Institute of Neuroscience in Glasgow(YRING)というプロジェクトにおいて,非競合的NMDA受容体拮抗薬フェンシクリジン(phencyclidine: PCP)を反復投与したラットの認知機能を,attentional set-shifting taskおよび5-選択反応時間課題を用いて評価した.その結果,PCP処置ラットは統合失調症の認知機能障害の一側面を反映している可能性が示唆された.

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© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
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