日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
第51回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムI:80 歳以上の消化管悪性腫瘍:早期発見と低侵襲治療〉
2.高齢者の早期胃癌を効果的に内視鏡治療するための適応
後藤田 卓志
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2010 年 47 巻 4 号 p. 281-284

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抄録

目的:早期胃癌に対する内視鏡的切除は,内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)の登場により,従来外科切除の対象であった病変に対しても内視鏡的な根治切除が可能となってきた.一方で,高齢者においては低侵襲という面から,適応外病変に対する確信犯的な内視鏡切除や,内視鏡切除後の非治癒切除症例に対しても追加外科手術を行わずに経過観察される症例も散見されるようになってきている.今回我々は,高齢者早期胃癌に対する内視鏡切除後の長期予後について検討した.方法:国立がんセンター中央病院にて1999年1月から2005年12月の期間に術前に内視鏡治療の適応と判断され内視鏡切除が施行された1,955症例(2,335病変)のうち,後期高齢者(75歳以上)432症例を対象として内視鏡切除後の予後を検討した.結果:全生存曲線においては,治癒切除群と比較して非治癒切除経過観察群で有意に予後が悪くなっていた(年齢・性・がんの既往・合併症(心・肺・腎・その他)の調整ハザード比:非治癒切除経過観察群;1.89(95%C.I 1.08~3.28)).しかし,高齢者における総死亡数は60例で,胃癌死が5例(8%),他病死が54例(92%)であった.結論:統計解析上高齢者であっても非治癒切除症例は,追加外科切除することが望ましいことが示唆される結果であった.一方,対象における死因のほとんどは他病死であり,根治治療を目指した標準外科切除の有無は,合併症の程度などから慎重に検討したうえでの決定が必要と考えられる.さらに高齢化社会の到来に伴って,高齢者においては若年者と同様の基準ではなく,より縮小した治療法,場合によっては無治療を選択肢とする考え方が可能かどうか等の検討が必要と思われる.

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© 2010 一般社団法人 日本老年医学会
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