2011 年 44 巻 10 号 p. 1239-1246
症例は66歳の男性で,心窩部痛,嚥下時つかえ感を主訴に受診した.上部消化管内視鏡検査および造影検査で腹部食道から噴門部にかけて潰瘍を伴う全周性の隆起性病変を認め,造影CTで噴門部および左胃動脈周囲リンパ節腫大を認めたが生検では悪性の診断は得られなかった.経過中に腫瘍による狭窄症状が悪化したため噴門部悪性腫瘍を疑い左開胸開腹下胃全摘,下部食道切除術を行った.摘出標本では食道胃接合部に凹凸の著しい白色上皮に覆われた隆起性病変を認めた.病理組織学的検査ではほとんど異型のない扁平上皮が食道筋層外まで達する病変を形成し,Ki-67免疫染色にて基底細胞層が陽性であることなどから食道に発生したVerrucous carcinoma(以下,VCと略記)と診断した.VCは主に口腔領域に発生する高度に分化した扁平上皮癌の一種で,食道に発生するものはまれとされている.食道に発生したVCの1例を経験したので報告する.