日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
わが国における脳卒中の病型鑑別診断水準と最近10年間の推移
広田 安夫劉 会中
著者情報
ジャーナル フリー

1975 年 12 巻 1 号 p. 7-12

詳細
抄録

わが国の脳卒中死亡率は国民死因の首位を占め, 国際的にもその頻度は高く, 病型別では脳出血が圧倒的に多いことが世界の専門家の注目を集めてきた. すなわち, 日本人の脳出血の高頻度は人種差によるよりも, 診断上の人工産物であろうと言われている. さらに, 最近の研究によれば, 脳硬塞の頻度も決して少なくはなく, 脳硬塞死亡率の急上昇が明らかにされている. これらの点は診断技術, 検査手技の進歩によるところも大きいが, 一方では確かに診断習慣の変化も否定出来ない. 現実に脳卒中の病型別頻度の変化が, わが国において起っているのか, あるいは単なる習慣の変化かを明らかにする必要はわが国民の保健対策上極めて大きいと考える.
著者らはこの目的のために, 日本病理剖検輯報を資料として, 昭和33, 34, 35年の3年間の30歳以上の剖検例中, 主病変として脳血管性障害を確認した例の臨床診断を検討し. 病型別に剖検・臨床診断一致率を求めた. 結果として, 脳出血例は70.5%, 脳硬塞例は37%, クモ膜下出血例は48%において両診断の一致をみたが, 各病型の20~36%は脳卒中または片麻痺とのみ臨床診断されていたことが明らかとなった. 次に, 昭和43, 44, 45年の3年間の全国剖検例で同様の検討を試み, 10年間の推移を比較した. 10年後, 脳出血は69.7%の一致率で不変であったが, 脳硬塞では50%と診断一致率に改善を認め, クモ膜下出血でも65%と著しく改善していた. さらに, 年齢別検討によれば, 脳硬塞の診断一致率の改善は高年齢群にのみ認められたのに対し, クモ膜下出血では年齢を問わず有意の改善を認めた. 診断不一致の傾向として脳硬塞を脳出血と臨床診断する傾向と, クモ膜下出血を脳出血とする傾向の2つが認められたが, いずれもこの10年間に減少していた. さらに, 全国9地区別に検討したが, 診断一致率の改善はほとんど全地区に等しく認められ, 大都市地区と農村地区とで差を認め得なかった.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top