日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
百寿に関する医学的研究 (1)
長寿の遺伝素因に関する家族歴の case control study
鈴木 信森 久恒安里 哲好佐久川 肇石井 寿晴細田 泰弘
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1985 年 22 巻 5 号 p. 457-467

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抄録

常識的に考えて長寿は遺伝と環境との相互作用によって得られるものと考えられる. 本論文は長寿の達成に遺伝子が関与しているか否かを解明することを目的とし, ことに遺伝に関する一連の研究のうち家族歴についての case controlled study を行ったものである. 現在まで長寿の遺伝に関する論文は数多くあるが, それらは単に事実について発表しているものであって, 長寿は長寿家系より生ずることを積極的に証明しているものは, 1974年に Abbott が発表した論文が唯一のものである. しかし彼の論文では, 対照群の選択にバイアス因子が混入していると考えられる. 我々は厳重な条件を設定した. 即ち, 百寿者と同一部落に生れ育ち, 死亡した人で, 同胞の末子, または末より2番目であり, 統計処理上自殺, 他殺, 原因不明死, 事故死, 戦争関係死を除く病死者の同胞が3名以上いることを必要とした. また彼らは調査時点の沖繩の平均寿命より年長であり, さらに彼らの長兄ないし長姉が調査時点で生きていれば100歳から105歳である人とした. さらに彼らから充分満足できる解答がえられることが必要条件であった. 以上の結果, 対照として選ばれた者は65歳以上の同部落老人2,270人中11人であった. これらの両家系について寿命に関する各種の指標を算出して, 父親群・母親群・男同胞・女同胞・全同胞・全家族の5群別に比較検討した.
推計学的に有意差を示したものは平均寿命では全家系群, 80↑/65↓と90↑/65↓では女同胞と全家族群, 80歳達成率では全同胞と全家族群, 90歳達成率では女同胞・全同胞と全家族群, 65歳以下若年死の平均死亡年齢では母親群・男同胞・全同胞・全家族群, R90では女同胞・全同胞と全家族群であった. これらの結果から長寿への遺伝の関与が推察された. それらは主として女性を介するように考えられたが男性を介するものも認められた.

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