日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
日本最長寿男性の長期追跡調査による包括的縦断研究
秋坂 真史田中 旨夫鈴木 信
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1997 年 34 巻 4 号 p. 312-323

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抄録

日本最長寿男性において, 百寿達成に至るまでの長寿に関する背景因子および100歳以後の健康保持の要因について考察を加えるため, 平成8年10月に112歳になった本邦における最長寿男性に焦点を当て基礎・臨床さらに社会医学を含めた包括的アプローチによって, 百寿達成以後の12年間にわたって縦断的に検討した. 生活歴では, 貧農の生まれであったが自由奔放で闊達な青年期をおくり, 家族は妹一人 (92歳) 以外をすべて沖縄戦で失った. 85歳まで独居にて農業をし, 97歳時より次男夫婦と同居した. 86歳以後も散歩等の運動を続け, 常に健康に留意していた. 臨床医学的所見では, 心電図での一部変化を除き, 異常はほとんどみられなかった. 血液検査でも, 各パラメーター値の低下は比較的緩徐であった. ADLの年次推移は, 在宅であった108歳まではほとんど低下を示さなかったが, 入院を機に急激に劣化した. 100歳時の栄養調査では肉, 野菜あるいは豆腐等を中心にバランスよく摂取しており, 1日の摂取エネルギーは1,361kcalであった. 中高年時の性格特性として心疾患親和性行動パターンを調べると, 総得点でタイプAに属するが, そのプロフィールは典型的な沖縄百寿者のパターンを示した. 改訂版長谷川式簡易質問票による痴呆度評価は, 106歳時は正常範囲であったが3年後には「痴呆」の判定になった. ADLや精神機能など108歳時の入院を機会に急に低下した機能も多く, QOLあるいはADLに関連して自立を重視した立場から言えば, 長寿を目指す意味においても, 事情の許す限り在宅で家族と共に迎える老後の方が一般的には望ましいと考えられた. また男性であっても, 青壮年から老年期にかけての不適切な生活習慣を改善し, 正しい健康意識を保持し, 自立できる豊かなADLを維持するよう運動および食事習慣に留意することによって, 100歳を超える健康長寿も期待できることが示唆された.

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