日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
アルツハイマー病患者の食行動異常と摂取栄養素の解析および予防・治療への応用
大塚 美恵子
著者情報
ジャーナル フリー

2000 年 37 巻 12 号 p. 970-973

詳細
抄録

アルツハイマー病 (AD) の発症に関与している環境的因子のなかで食事因子に着目して食事栄養調査を行った. AD患者では魚と緑黄色野菜の摂取が低く, 栄養素的には魚に多く含まれるn-3系 (ω3) 多価不飽和脂肪酸 (PUFA), および野菜に多く含まれるカルシウム, ビタミンC, カロチンなどのビタミンとミネラルの摂取が有意に低いことを報告した. これらの結果はADの発症に食事因子が関係し, 栄養学的介入が痴呆の予防や治療に応用出来る可能性を示している. 今回我々はAD患者の食事栄養調査を行うとともに, 痴呆の発症と食行動異常の発症の時間的前後関係を明らかにするため食事歴, 生活歴を詳細に聴取した. AD患者では若いころから偏食が強く魚や野菜嫌いが多く, 痴呆の発症によってさらに食行動異常が激しくなる傾向にあり, 食行動異常は痴呆の結果ではなく発症に密接に関係したものと考えられる. 特に幼少時期からの食行動異常の見られた例, 単身赴任, 長期海外滞在, 外食, 高齢になってからの急激な食事環境の変化のあとに痴呆が発症した例が多かった点はこれを支持するものと考える. 次に, AD患者に対して, 食事指導ならびにn-3系PUFAであるエイコサペンタエン酸エチル (ethyl EPA) 製剤を投与し, 認知機能と日常生活の活動能力の改善効果を解析した. AD患者の自然経過ではMMSEが6カ月で平均2点, 12カ月で平均4点下がるとされるが, 71.4%の例でこの自然経過よりは得点の低下を遅くさせることができた. 特に開始後6カ月までは開始時点の得点を上回った. しかし, 栄養学的介入だけでは痴呆の治療に限界があり, 6カ月以降は進行を抑えることはできなかった. 以上の結果はADが食事に密接に関連した生活習慣病の可能性を示唆し, 食事指導は痴呆の一次予防として重要であるだけでなく, すでに発症した場合にも治療に応用できる可能性を示すと考える.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top