日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
特養およびケアハウス入所者のQOLの向上を目的とした鍼灸治療の試み
松本 勅寺沢 宗典
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2001 年 38 巻 2 号 p. 205-211

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抄録

身体の不自由な高齢者のQOLに対する鍼灸治療の影響を明らかにするため, 平成9年度の1年間に特別養護老人ホーム入所者18名, ケアハウス入所者17名, 合計35名 (年齢: 67歳~94歳, 平均79.1±6.8歳) に鍼灸治療を行い. 年度最終治療日の治療直前における聞き取り調査によって愁訴の苦痛の程度および全身状態, 気分, 睡眠, 食欲, 便通, 歩行状態, ADLなどの主観的QOLの状態を調べ, 鍼灸治療の影響を検討した. 苦痛の程度のペインスケールは, 肩こりおよび腰痛, 肩関節痛, 股関節痛, 膝関節痛, 上肢痛などの疼痛が4~7割軽減した. 疼痛の変化別の率では, 有効 (半減以上) の改善を示したものが約6割を占めた. 肩こりは平均で半減し, 有効以上が7割であった. アンケート調査による効果の感想では, 全身状態では身体の軽さ, 疲労の改善, 気分の改善が得られた者が7~8割を占め, 睡眠状態の改善が6割前後, 食事の状態や食欲の改善が6~7割, 便通の改善が約4割にみられ, またADLの種々の動作に改善がみられた. なお, 改善がみられなかった者のほとんどが, 鍼灸治療後の一定期間 (多くは1~3日間) は一定の軽減を示した後に徐々に元に復する経過をたどった. 以上のように, 高度の器質的変化をきたした慢性・退行性疾患を有する高齢者に対する鍼灸治療により, 持続効果は小さいものの週1~2回の継続治療により疼痛の軽減状態と全身状態や睡眠. 食事. 便通, 歩行, ADL等の改善が得られたことから, 鍼灸治療が日常生活の快適さや活動性を回復するのに役立ち. 主観的QOLの向上に有用な治療法であることが示唆された. 苦痛の程度や全身状態等のペインスケールやアンケート調査による評価には限界があり, 客観的な評価法との組み合せによる評価が望ましく, 今後の課題であると思われた.

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