日本救急医学会雑誌
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内因性疾患による交通外傷の検討
田熊 清継堀 進悟小池 薫佐々木 淳一北野 光秀吉井 宏相川 直樹
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2006 年 17 巻 5 号 p. 177-182

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抄録

目的:内因性疾患による交通事故は,従来は主として死亡例を対象に検討され,系統的研究の対象となることが少なかった。本研究の目的は,生存例を含め,交通事故の原因となる内因性疾患について,発生率,診断,転帰などを明らかにすることである。対象と方法:1998年10月から30か月の期間に,済生会神奈川県病院へ救急搬送された交通事故患者2,560人を対象とした。救急隊の観察記録と医療記録とを照合し,内因性疾患のために発生した交通事故の頻度,診断,転帰などを検討した。結果:交通事故患者2,560人(運転者1,571人)中,事故発生時に受傷機転にはよらない意識障害が医療記録で確認された例は65人(全体では2.54%,運転者あたり4.14%),このうち飲酒運転は49人(同1.91%及び3.12%),居眠り運転は2人(同0.08%及び0.13%),内因性疾患による意識障害と判定された運転者は14人(運転者の0.89%)であった。原因疾患は,心室細動4人,てんかん3人,クモ膜下出血2人,低血糖1人,肝不全1人,胸部大動脈瘤破裂1人,血管迷走神経性失神1人,気管支喘息1人と多岐にわたった。運転者の内因性疾患による交通外傷14人中7人に心肺停止が発生し,5人は職業運転手であった。心肺停止7人中4人は救急室で死亡し,心拍再開した心肺停止3人中1人は入院後に死亡,2人は他病院に転送された。心肺停止以外の7人中3人は入院治療後に生存退院し,4人は救急受診後に帰宅した。結論:医療記録と救急隊記録とを用いて,運転の内因性疾患が交通事故の誘因となった割合を検討すると,交通外傷全体の0.55%,運転手あたり0.89%が該当した。

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