日本衛生学雑誌
Online ISSN : 1882-6482
Print ISSN : 0021-5082
ISSN-L : 0021-5082
微量金属の脂肪細胞における glucose とり込みおよび代謝促進効果
山本 昭子和田 攻小野 哲小野 弘子真鍋 重夫石川 晋介
著者情報
ジャーナル フリー

1983 年 38 巻 5 号 p. 863-869

詳細
抄録

微量金属の生体膜および代謝への関与を, insulin との関連において知ることを目的としラット副睾丸脂肪細胞を用いて glucose の酸化および lipid への転換に及ぼす9種の金属イオンの (CrCl3, MnCl2, NiCl2, CuCl2, ZnCl2, SeO2, CdCl2, HgCl2, SnCl2) 影響を観察した。
反応液中 albumin の金属作用への干渉を抑えるため至適濃度を検討し, 2mg albumin/ml Krebs-Ringer-bicarbonate buffer を採用した。この反応液を用いて glucose 酸化と lipogenesis に効果があるとされている insulin とZn2+は, 通常用いられている2% albumin 液での効果に比し, 同等以上の促進効果を示した。また反応は細胞数 (1.2×105コ/mlまで) と時間 (2時間まで) に依存した。
上記低 albumin 反応液での glucose 酸化と lipogenesis に及ぼす金属イオンの影響は次の如くであった。1) Mn2+ (5mM), Ni2+ (5mM), Zn2+ (500μM), Cd2+(500μM) は両作用ともに基礎値を2-3倍, Hg2+ (20μM) は約20%促進した。Se4+は glucose 酸化のみ約50%促進した。2) glucose 酸化と lipogenesis に対する insulin の促進効果について, Mn2+ (5mM), Zn2+ (500μM), Cd2+ (5μM), Hg2+ (5μM) は両作用に, Se2+ (50μM) は glucose 酸化にのみ insulin と相加効果 (または相乗効果) を示した。3) Mn2+とZn2+は3-O-methylglucose の膜輸送を促進した。4) Mn2+, Zn2+, Ni2+, Cd2+, Hg2+は両作用に対し, Se4+は glucose 酸化のみに, glucose の特異的膜輸送を50μM-cytochalasin B で阻止してもなお促進効果を示した。これらの金属イオンは細胞内代謝の促進に関与するものと推測された。
以上の結果より今回試みた微量金属イオンの脂肪細胞, glucose 酸化と lipogenesis への影響は次の如くまとめられる。
膜輸送と細胞内代謝をともに促進するもの: Mn2+, Zn2+.
細胞内代謝のみに関与するもの: Cd2+, Hg2+, Ni2+, Se4+.
Insulin 作用を増強するもの: Mn2+, Zn2+, Cd2+, Se4+, Hg2+.
影響の観察されなかったもの: Cr3+, Cu2+, Sn2+.

著者関連情報
© 日本衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top