日本泌尿器科学会雑誌
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前立線癌おける Androgen Receptor 遺伝子の変異
王 春喜内田 豊昭
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1997 年 88 巻 5 号 p. 550-556

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抄録

(背景と目的) アンドロゲンはアンドロゲンリセプター (AR) を介して, 正常前立腺および前立腺癌の発生・増殖に関与している. 無治療前立腺癌の約80%はホルモン療法により一時的に軽快するが, 治療開始後12~18ヵ月間で半数以上の症例がホルモン抵抗性となり再発する. 前立腺癌の進展におけるAR遺伝子の関与について検討することを目的として, AR遺伝子の変異の有無について検討した.
(対象と方法) 29例の前立腺癌原発巣と3例のリンパ節転移部の合計32検体につき polymerase chain reaction single-strand conformation polymorphism (PCR-SSCP) および direct-sequence 法を用いてAR遺伝子の exon BからH領域について解析した. 3例のリンパ節転移巣は無治療の stage D1症例に対する根治的前立腺全摘術時に採取したものである. Stage D2の11例中6例はホルモン抵抗性となった症例である.
(結果) 全体では29例中1例 (3.4%), stage D2のホルモン抵抗性症例に限ると6例中1例 (16.7%) にAR遺伝子変異が認められた. この変異はAR遺伝子の exon Dのコドン629がアルギニン (CGG) からグルタミンへ (CAG) へと変異していた. 本症例の臨床的特徴について他の5例ホルモン抵抗性症例と比較すると, ホルモン療法剤の種類, 投与期間に差は認められなかったが, 血清PSA値が480ng/mlと高値であった. 他の28例の前立腺癌原発部および3例のリンパ節転移部には変異異常は認められなかった.
(結論) 前立腺癌の発生およびホルモン療法後のホルモン抵抗性獲得においてAR遺伝子の変異が関与している可能性が考えられる.

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